リヨン、ジュネーブ経由でチュウリッヒ         車内検問事件簿

翌朝雨は止んでいた。

 

次はどこへ行くか?

ニースからジュノバ、ミラノへも魅力あるプランだし、

リヨンからジュネーブ、チュウリッヒ、フランクフルトもあり、

と迷った。

 

結局、ミラノは二人とも訪れたことがあるので、

取り敢えず今日の泊りは

リヨン、ジュネーブ経由でチュウリッヒ行きに決まった。

 

リヨンを経由してスイス領に入ると、

 

突然、

私服姿の屈強なスイス警察の三人の刑事が車両に現れた。

 

彼らは順番に警察手帳を見せて、検問を始めた.

一人が私にパスポートの提示を求め、簡単な質問をした。

「どこの国から? 」

「ビジネス?」

そして、私に耳元で、

「パスポート提示は意図はない。儀礼的なものだから」

と云うようなことを言った。

 

まもなく、

私が座っている席の3列後ろから激しい口論が聞こえた。

一人の男が激昂しているが、

何でもめてるのか全くわからない。

2,3分続いたであろうか、

刑事3人が容疑者らしき男を取り囲み、

他の車両に連れて行った。

 

やがて彼らと容疑者らしき男が戻ってきた。

彼らの一人が容疑者らしき男に握手を求め、

そして3人は出て行った。

容疑者と間違えられた男は

何事もなかったかのように席に座り、

次の駅で降りていった。

特別に変わったところのない、

何処にでもいるような男で

激昂する姿は想像できなかった。

 

しかし、

一番不思議に思ったのは、

他の乗客がまったく反応を示さなかったことだ。

背を向けている乗客は後ろを振り向かず、

正面を向いている客は視線を変えもしない。

皆、まるで何も起きていないような顔の表情だった。

 

「犯罪と政治と宗教の問題には近寄らない」

国々や民族や宗教が重なり合って存在する欧米人の身の処し方

なのだろうか。